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消滅世界 村田沙耶香 Amazonより 人工授精で、子供を産むことが常識となった世界。夫婦間の性行為は「近親相姦」とタブー視され、やがて世界から「セックス」も「家族」も消えていく……日本の未来を予言する芥川賞作家の圧倒的衝撃作。
読後の感想
読み終わり、「雨音!普通じゃない!」と思いましたが、そもそも普通とは何か?というコンビニ人間の読後感と同様の印象でした。村田沙耶香さんは本を通して私たちに問いかけてきます。天才なんだと思います。
誰が正しいのか、正常なのか、そんなことはわかりません。その人、その人、それぞれの立場があり、その別の立場からジャッジすれば、誰かは異常者で、自分自身は普通だと思い込んでいるだけの世界で、それはそのまま今の私たちの世界でもあるのでしょう。
「大事だから隠しているんだよ」引用
「大事だから隠しているんだよ。本当に大事な恋人のことは、隠したいもんね。水内くんは、本当にラピスが好きなんだね」水内くんは微かに頷いた。
水内くんが自分の考えを話した時に雨音が言ったこの文章を読みながら、こういう風に寄り添ってくれる恋人や友人がいることが気持ちを楽にさせると思いました。自分はおかしいのではないかという悩みに寄り添ってもらえたら傷つくことも少なくなりそうです。
「順調すぎる結婚生活って、何だか不気味ね」引用
すべて順調だった。そう母に報告したとき、母は、
「順調すぎる結婚生活って、何だか不気味ね」
と冗談混じりに言った。
主人公の母はかなり強烈なキャラクターです。全ての親がホームドラマに出てくるような理想的な親ではないことは一生知らずに過ごせる人も稀にはいるでしょうし、どこかのタイミングで知る人が多いと思います。先日ある友人がどこの家でも親が亡くなったら悲しいものだという決めつけで話をして、そのうち何人かは亡くなった親を思って涙を流していました。はたから見たら良い光景なのでしょうが私はとても冷めてしまい、この友人とは本当の意味でわかりあうことは多分ないだろうと感じました。実はそもそもわかりあってなどいなくて、私が一方的に合わせていたのか、逆に私が変わっていて、彼女の方が合わせてくれていたのかもしれません。明らかに普通の概念が離れすぎていました。
家族というシステム 引用
今の時代、結婚は、子供が欲しいか、経済的に助け合いたいか、仕事に集中したいので家事をやってほしいか、そういう合理的な理由ですることが多い。もちろん、単にパートナーが欲しくて結婚する人もいるが、だったら友達と暮らしたほうが気楽だという人も増えている。 家族というシステムは、生きていく上で便利なら利用するし、必要なければしない。私たちにとってそれだけの制度になりつつあった。
妊娠や家族に関して独自のシステムが確立したこの本の世界観の中での話だと思って読みましたが、違和感を感じて読み返してみました。私たちが行う通常「恋愛」と呼ばれるフィルターをすべて取り払ってこの文章を読んだ時に「これってそのまま今の現実じゃない?」。
相手に尋ね返すことにしている。 引用
「うーん……」
言葉に詰まった私は、苦笑いを浮かべた。
「自分ではわかんないんだよね。逆に、どうしてそんなに子供が欲しいの?」
私はこういうとき、相手に尋ね返すことにしている。そこに自分と同じ理由があるかもしれないと思うからだ。
私は割合と真面目なたちで、質問されたら自動的に答えなければいけないと感じます。そのせいなのか、生来の秘密主義からなのか、質問されることがとても苦手で、自分からいろんな角度の質問を繰り出して、自分のことは話さないで済むようにしています。多くの人は自分の話がしたいので、質問さえ投げておけばこちらが真剣に耳を傾けたポーズをしていれば延々と話し続けてくれます。今後は私も尋ね返す作戦を使います。
見下しているような気 引用
ミカとエミコは樹里が自分たちを見下しているというが、私は、二人のほうが結婚している私たちを見下しているような気がすることがある。「新しい生き方」をしている二人から見れば、なんでわざわざそんな古い制度に縛られるんだ、と思うのかもしれない。
長く独身でいるせいか、結婚している人からの優越感は感じたことはありますが、逆に「結婚なんてしてしまって・・・・」という見下しを感じるというこの部分は新鮮でした。女性にありがちと一括りにしてしまうのは乱暴な理屈になりますが、相手を認めたら自分の世界が一段下がってしまうと感じる人が多いのではないかと思います。結婚しているしていない、子どもがいるいない、恋愛しているしていない、どのような状態であっても、その結果はその人が積み重ねた決断の結果であり、全て等しく尊重されるものであってほしいです。
所感
村田沙耶香さんの本はこの消滅世界とコンビニ人間しか読んだことがありません。たったの2冊から突きつけられた「普通って何?」というメッセージにより、私たちがいかに普通であることにこだわり、普通でなくなることに恐怖を感じつついきているのかを考えさせられます。他の本も読んでみます。文体も読みやすく、さすが人気作家さんです。できたら網羅したいくらいです。

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